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こじらせ女子大生が暗号通貨・ブロックチェーンや中国についてゆるーく語ります。

アメリカが支配する国際金融システムと暗号通貨・ブロックチェーンによる対抗

こんにちは、こじらせ女子(@icotaku_utgirl)です。
先日のNHKスペシャルアメリカと中国のテクノロジー覇権争い』では、中国が一帯一路沿線国と共にドルに頼らない国際金融システムブロックチェーンで作ろうとしている、という話が取り上げられていました。

icotaku.hatenadiary.com

基軸通貨ドルを擁するアメリカが国際金融システムを支配する状況が長年続いてきましたが、中国と一帯一路沿線国のように、ドルとアメリカによる支配を脱却すべく暗号通貨・ブロックチェーンに注目する国は少なくありません。

今回は、このような動きを理解する上で必須となる米ドル基軸通貨制度に関する基礎知識と、それに暗号通貨・ブロックチェーンで対抗しようとする動きを紹介します。

米ドル基軸通貨制度の概要

国際通貨と基軸通貨

そもそも基軸通貨の定義とは何なのでしょうか。
基軸通貨を包括する概念として国際通貨がありますが、これは国際的な貿易・資本取引において中心的に利用される通貨のことを指します。 そして基軸通貨は、国際通貨の中で最も信頼され、世界レベルで利用されている通貨を指します。具体的には

  • (1)為替市場における取引

  • (2)貿易で使われるインボイス通貨

  • (3)国際金融取引(クロスボーダーの銀行融資や債券)

  • (4)各国の外貨準備

  • (5)紙幣の国外流通(政治・経済状況が不安定な国では他国の通貨が流通することがある)

の5つの側面で優位性を持つものが基軸通貨であると言えるでしょう。
(1)や(2)においては、直接アメリカが絡まない取引でも、ドルが媒介通貨として使われることがポイントです。

基軸通貨ドルとその歴史

具体的にドルが基軸通貨であることを示す統計をいくつか見てみましょう。
まず、2016年度の世界の外国為替市場における通貨別の為替取引シェアでは、ドルが88%と圧倒的首位を占めています(表1)。これは国際決済銀行(BIS)が各年4月の1日平均の取引額のシェアを3年ごとに発表しているもので、ここ20年ほどドルが80%超で首位にある状態が続いています。

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出典: BIS Triennial Survey of foreign exchange and OTC derivatives trading

世界の外貨準備における通貨別割合でも、2000年以降その割合は漸減しているものの、ドルが6割超で首位に立っています。
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出典: 財務省; IMF COFER Statistics

さらに貿易取引で使われるインボイス通貨の割合でも、 SWIFT上で実行された決済において、金額・ボリュームベースでドルが5割を占めています。ユーロ圏内の取引などを除いた超地域的な決済ではドルが8割を占めており、主要インボイス通貨として世界各国間の貿易取引で盛んに利用されていることがわかります。
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出典: SWIFT Worldwide Currency Usage and Trends

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出典: SWIFT Worldwide Currency Usage and Trends

ドルは第二次世界大戦後のブレトン=ウッズ体制確立以来、基軸通貨であり続けています。
当時、アメリカが圧倒的な経済力と軍事力を持ち、世界最大の金保有国でもあったため、ドルに金とのそのドルに各国通貨をペッグする金ドル本位制が成立しました。その後アメリカは戦後復興を図る西側陣営諸国にドル建で援助を行ったり、貿易相手国にドルを使用させるなどして、ドルの基軸通貨としての地位を確立させていきます。
その後アメリカの国際収支は赤字に転落し、1971年に金ドル本位制は崩壊しましたが、既に確立していたドル基軸制度を維持することに経済合理性があったのと、アメリカが依然として世界最大規模の経済・軍事大国であったことから、ドル基軸体制は今日に至るまで続くことになります。

基軸通貨を多様化させようという動きもあり、ユーロ・日本円・人民元基軸通貨候補として名乗りを挙げていますが、基軸通貨としての機能を果たすには

  • (a)通貨価値の安定

  • (b)高度に発達した為替市場と金融・資本市場の存在

  • (c)対外取引規制がないこと

などの条件を満たす必要があり、ドルほどの適任は存在しないというのが現状です。

経済制裁の手段として使われるドル

そんな基軸通貨ドルを擁するアメリカは、ドル中心の国際金融網を経済制裁の手段としてしばしば利用してきました。

2001年の9.11同時多発テロをきっかけに制定された愛国者(PATRIOT ACT、正式名称はUniting and Strengthening America by Providing Appropriate Tools Required to Intercept and Obstruct Terrorism)では、テロ行為を助長する資金の流れを断つため、国内金融機関と取引のある外国金融機関がマネロンやテロ資金供与の主要懸念先に指定された場合、5つの特別措置を発動できることを定めました。その中には、国内金融機関はその主要懸念先となった金融機関のコルレス口座の開設・維持を制限・禁止できるとした条項も含まれていました。

そもそもコルレス口座とは、国際送金のために海外の銀行に開設された口座のことで、当事者となっている銀行間の送金だけでなく、他行間の送金の中継点となることもあります。例えば邦銀Aからドル建で米銀Bに送金する際、全ての邦銀が全ての米銀にコルレス口座を持っているわけではないため、邦銀Aが米銀Bにコルレス口座を持っていないこともあり得ます。その場合、邦銀Aが米銀Cに持っている口座に送金したあと、米銀Cが米銀Bに再び送金することで、邦銀Aから米銀Bへの送金が完了します。
アメリカとは関係ない第三国の銀行同士の決済でも、ドル建で決済が行われている限り一度は米銀のコルレス口座を経由することになります。

したがって、愛国者法に則り米銀のコルレス口座を凍結できるということは、アメリカが直接絡んでいない場合も含めドル建の取引を制御、資産を凍結できるということを意味します。こうして基軸通貨ドルを擁するアメリカは国際金融システムを支配しているのです。

では、さすがのアメリカもドル建でない取引までは支配できないのではないか、ドルではなくユーロや人民元で取引をしてアメリカの経済制裁から逃れることができるのではないか、と思う方もいるでしょう。実際、過去にアメリカから経済制裁を受けたイラクやイランが原油の決済通貨をユーロに変更したこともありました。今や世界最大の原油輸入国となった中国は、人民元建での原油取引開始や上海原油先物市場の開設により、人民元の国際化を進めようとしています*1

しかし、2000年のイラク原油取引のユーロ決済宣言が、最終的に2003年のアメリカによるイラク侵攻を招いたと言われています。また直近では、コルレス口座を持つ米銀だけでなく、ドル以外の国際通貨も含めた決済を広く扱うSWIFTに圧力をかけることで、イランを国際決済網から徹底的に排除しました。SWIFTは世界各国の金融機関が加盟するコンソーシアムで、本来中立的な立場にあるはずですが、今回アメリカの圧力に屈してイランの金融機関を排除することになったのです*2

このようにアメリカは、ドル以外にも自国の安全保障を脅かす資金の流れを食い止める手立てを持っているのです。

対抗策としての暗号通貨とブロックチェーン

そんな中でアメリカの支配する国際金融システムに対抗すべく各国が注目しているのが、暗号通貨・ブロックチェーンです。

ベネズエラが発行した原油ペッグトークン・Petro

ベネズエラによる原油ペッグトークン・Petroは、史上初の国家によるトークンセールで売り出され、一部報道によると7億ドル超の調達に成功したとも言われています*3
ベネズエラに対しては、アメリカが独裁体制を敷くマドゥロ政権を封じ込めるために、政府や国営企業の資金調達手段を封じるなどの経済制裁を課していました。この経済制裁を回避し外貨を獲得するために、ベネズエラ政府はPetroのICOによる資金調達を行いました。
また、Petroは原油1バレルにペッグされており、ベネズエラ原油輸入時の決済通貨としても使われることを想定していました。ベネズエラはかねてから人民元原油決済通貨に指定するなどドル離れを企ててはいましたが、政府自ら発行したトークンを使うことで第三国通貨を使用することによるリスクを回避しようとしたのでしょう。これにより、既存の国際決済網に頼らなくとも、直接Petroトークンで原油取引の決済ができるようになるはずでした。

他にも、ハイパーインフレで使い物にならなくなった自国法定通貨ボリバルに代わり、公共料金の支払いにも利用される想定でした。

しかしPetroプロジェクトは、トークンそのものやウォレットの開発が進んでいない、油田の開発が進まず裏付けとなる原油が調達できないなど問題が山積みとなっています。政府側も、Petroを原油に加え金・鉄・ダイヤモントにバスケット・ペッグすると宣言したかと思えば*4、今度はハイパーインフレで使い物にならないはずのボリバルにペッグすると発表するなど*5と、まさに朝礼暮改という状況です。

Petroの構想自体は経済制裁や既存の国際金融システムを迂回しようという取り組みとして非常に斬新なものでしたが、現状を鑑みると当初のベネズエラ政府の計画を実現するのはほぼ不可能でしょう。

ロシアが外貨準備にビットコインを追加するという噂

今年1月、ロシアが外貨準備として1兆円分のビットコインを購入するという報道が話題となりました。この報道は信頼できる情報源から出たものではなく、フェイクニュースだったのではないかとも言われていますが、この噂が流れた背景にも、アメリカの経済制裁があります。
ロシアはアメリカ大統領選介入疑惑以降、ロシア企業が米銀に保有しているドル資産を凍結されるなどの経済制裁を受けていましたが、それに対抗する形でドル資産(主に米国債)の保有を徐々に減らし、国内企業にも貿易の決済をドルではなくルーブルや他の通貨で行うよう呼びかけるなど、「脱ドル化」を進めてきました。
ロシア政府は2018年を通して、米国債を売却し金をの保有高を増やしてきましたが*6、保管コストが高い金の代わりに一定量ビットコインを外貨準備として加える可能性もゼロではないでしょう。

中国が一帯一路沿岸国と共に作り上げる新たな国際金融システム

年明けのNHKスペシャルで、中国のTAIクラウドというブロックチェーン企業が一帯一路沿岸国と共に、ドルに依存しない国際金融システムをブロックチェーンで作ろうとしている話が出てきました。
プロジェクトの具体像はまだ明らかになってはいませんが、これが実現すればRippleのように各国の金融機関が参加するコーンソーシアムの形を取り、リーダー国である中国の人民元のデジタル版、またはRippleにおけるXRPのような独自通貨がネットワーク上の基軸通貨になると予想されます。このイニシアチブに、イラクやイラン、トルコのようなアメリカからの制裁に苦しむ国家が参加すれば、反米連合による強力な国際決済網が形成され、ドルとアメリカの地位に深刻な影響を及ぼしかねません。

まとめ

今回の記事では、基軸通貨ドルを擁するアメリカによる国際金融システムの独占支配と、暗号通貨やブロックチェーンを頼ってそれに対抗する動きを紹介しました。
前回取り上げたパブリックチェーンの耐検閲性と中国の新法規制にも通じる点ですが、国家権力への対抗こそ、P2Pでの価値の移転を可能にするブロックチェーンが最も威力を発揮する場面だと個人的には思っています。特にビットコインイーサリアムなど、運用開始から長い年月が立ち、バリデーターもトーク保有者も匿名で世界中に分散しているネットワークであるほど、もはや制裁を課すことは不可能で、国家権力に対してその威力を発揮するでしょう。
記事で取り上げた3つのケース以外にも、国家主導での暗号通貨の発行*7ビットコインによる貿易取引の決済*8など、関連するニュースが続々と出てきています。今後も暗号通貨やブロックチェーンが、アメリカが掌握するドル中心の国際金融システムにどのような影響を与えていくのか、注目していきたいところです。