身在东京,心在上海。

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こじらせ女子大生が暗号通貨・ブロックチェーンや中国についてゆるーく語ります。

仮想通貨税制を巡る国際的な規制

こんにちは、こじらせ女子(@icotaku_utgirl)です。あけましておめでとうございます。
私もついに学生生活残すところあと3ヶ月となりました。
好きなことにコミットできる時間を大切に、今後とも様々な方よりご指導をいただきながらブロックチェーン中国関連の発信をしていきたいと思います。(願わくば社会人になっても!)

2019年もどうぞよろしくお願いします。

さて、先日平野淳也さんのサロン・d10n Labにて、「なぜ仮想通貨に関わるAML/CFTが国際社会で重視されているのか、国際金融規制の歴史から考える」というタイトルのレポートを配信させていただきました。

詳細はレポートでご覧いただきたいのですが、要点をサクッとまとめると、

  • AML/CFT(マネー・ロンダリング/テロ資金供与対策)は、国家の安全保障に関わる問題として先進諸国に重視されてきた
  • 90年代以降、FATF(Financial Action Task Force、金融作業部会)を中心に、加盟国同士の相互審査と経済制裁による強力な規制網が形成されてきた
  • 仮想通貨も、既存金融の世界で形成された規制網をかいくぐる可能性がある新たな決済システムとして、FATFが主導する国際的な規制の対象となっている
    ということを解説しています。

実は、同じような形態の国際協力が、仮想通貨税制の領域でも進みつつあります。 一国の財政に関わる税制は、安全保障に関わるAML/CFTと同じくらい、国益に直結する問題だからです。

本稿では、現時点での仮想通貨税制を巡る各国の動向を概観したうえで、先進諸国による租税回避との戦いの歴史を振り返り、今後の規制の動向に関して個人的な見解を述べたいと思います。

仮想通貨税制を巡る各国の動向

2019年1月現在で仮想通貨税制を整備しているのは、アメリカ、カナダ、ドイツ、フランス、イギリス、シンガポール、そして日本のような、一定規模の仮想通貨投資家を抱える国が中心で、これらの国でも仮装通貨の税法上の立て付けや税率等はバラバラです。
例えば日本では、仮想通貨取引による利益は所得税、中でも雑所得に区分され、他の所得と合算した上で最高45%の税率が適用されます。 一方で、アメリカでは、仮想通貨取引による利益は株式や債券の売買から生じる利益と同じく "Capital Gain" と見なされ、最高37%、1年以上保有していた場合は最高20%の税率が適用されます。
(モノ・サービスの対価としての所得、マイニングによる所得等の場合は立て付けが違ってきますが、ここでは割愛します。)

そして2017年の仮想通貨市場の盛り上がりで、仮想通貨取引で巨額の利益を出したと思われる投資家数に対し、2018年に確定申告をした投資家数が明らかに少ないことが露呈し、各国で取り締まりが強化されました。脱税の実態を明らかにすることを目的とした多国間イニシアチブの形成も見られました。

www.nikkei.com

  • アメリカ  
    • 2016年12月 IRS(Internal Revenue Service、内国歳入庁)が、未納税者の摘発を目的に米国の大手取引所Coinbaseに顧客取引データの提出を求める。長きに渡る法廷での抗争を経て、2017年11月には一部の取引額の多い顧客の取引データをCoinbaseが引き渡すことで決着。
    • 2018年2月 IRSが専門チームを結成し、仮想通貨を利用した租税回避の調査と取り締まりに注力すると発表。国内の "unlicensed" な取引所や海外の取引所も調査対象に。
  • 日本
    • 2018年11月 仮想通貨取引から得られる利益の申告漏れを摘発するため、国税庁が仮想通貨交換業者に情報照会できる制度を設ける方針を発表。
  • 国際社会の反応
    • 2018年3月 OECDがG20加盟国の財務大臣・中央銀行総裁に送付した報告書の中で、仮想通貨やブロックチェーンといった新たな技術が税制に与える影響を調査すると宣言。
    • 2018年7月 米・英・オーストラリア・カナダ・オランダの税務当局が租税回避への取り締まりを目的とする多国間イニシアチブ・J5を結、仮想通貨が各国の税制に及ぼす脅威についても共同で調査を行うと表明。

ここで、注目したいのは、OECDやJ5が、仮想通貨取引の利益の申告漏れ以上に、仮想通貨を利用した租税回避を懸念しているように見える点です。それぞれが出した声明の内容を具体的に見てみましょう。

OECD

At the same time, technologies like blockchain give rise to both new, secure methods of record-keeping while also facilitating crypto-currencies which pose risks to the gains made on tax transparency in the last decade. Some work is already underway to better understand and address these developments, but further work is required to ensure that governments can harness the opportunities these changes bring while ensuring the ongoing effectiveness of the tax system. It will also be important to give specific consideration to how advances can be implemented in developing countries to take into account their particular circumstances.
(OECD Secretary-General Report to the G20 Finance Ministers and Central Bank Governors, Buenos Aires, Argentina. March 2018より)

J5

The Joint Chiefs of Global Tax Enforcement (known as the J5) are committed to combatting transnational tax crime through increased enforcement collaboration. We will work together to gather information, share intelligence, conduct operations and build the capacity of tax crime enforcement officials. (中略)
We will work together to investigate those who enable transnational tax crime and money laundering and those who benefit from it. We will also collaborate internationally to reduce the growing threat to tax administrations posed by cryptocurrencies and cybercrime and to make the most of data and technology.
(IRS公式サイト "Joint Chiefs of Global Tax Enforcement" より)

下線で強調した部分に着目すると、
OECDは「ここ十年で進んだ税の透明化に対し仮想通貨が及ぼすリスク」 J5は「仮想通貨やサイバー犯罪が税制にもたらすリスク」 と述べていることがわかります。

さらに、米国IRSのChiefであるDon Fort氏も、インタビューで次のように述べています;

It’s possible to use Bitcoin and other cryptocurrencies in the same fashion as foreign bank accounts to facilitate tax evasion

以上から、国際社会が税制の文脈で仮想通貨に抱く懸念は、その取引による利益の申告漏れだけではなく、租税回避に対する規制強化の流れの中で、仮想通貨が租税回避を幇助する新たな脅威になりうることだとも、考えられるのではないでしょうか。

そこで次章では、既存金融の世界で、租税回避を巡ってどのような国際協力がなされてきたかを振り返ります。

既存金融における租税回避への国際的取り締まり

既存金融における租税回避規制は、先進国とタックス・ヘイブンとの闘いの歴史と言っても過言ではありません。ではそもそも租税回避の舞台となっているタックスヘイブンとは何なのでしょうか。
タックスヘイブンは以下のような三つの特徴を持つ国・地域のことで、具体的には英領ケイマン諸島、英領ヴァージン諸島、リヒテンシュタイン、マルタ、パナマなど、島国や小国がほとんどです。

  • 非居住者の企業や預金者に対する税率を極めて低く設定している
  • 非居住者の口座や取引情報に対する厳密な守秘義務がある
  • 法人設立が容易にできる

このような特徴を持つタックスヘイブンに、富裕層や企業が金融機関の口座や法人(実態のないペーパー・カンパニー)を作り資産を移すことで、租税回避が行われてきました。犯罪により得られた収益の出所をくらますマネー・ロンダリングの温床にもなっています。

タックスヘイブンの歴史は古く、それに対する国際的な規制も1970年代頃から行われてきましたが、ここ10年ほどで規制が強化されてきた背景には、2008年の金融危機による各国の財政収支の悪化*が挙げられます。財源が削られ国民の生活水準が向上しない一方、富裕層や大企業がタックスヘイブンを利用して富を蓄積している実態に、各国で国民の不満が溜まってきたのです。2016年4月にパナマ文書が一部が公開され、企業家や政治権力者による租税回避の実態が明らかになったことで、国民の不満はより一層高まることとなりました。

そこで2010年以降、アメリカやOECDの主導の元、タックスヘイブンやその利用者に対する規制が強化されていくことになります。

  • 2010年 米国がFACTA(Foreign Account Tax Compliance Act、外国口座税務コンプライアンス法)を導入、第三国の金融機関に自国民の口座情報の申告を義務付ける。
  • 2012年 米国と欧州五カ国(英・仏・ドイツ・イタリア・スペイン)が共同声明を発表、FACTA施行のため、各国税務当局が国内の金融機関からアメリカ人の口座保有者の情報を収集してIRSに提供することに。
  • 2012年 OECDでBEPS(BEPS: Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転)プロジェクトが発足、多国籍企業の租税回避問題に国際社会一丸となって対処するとを宣言。
  • 2014年 OECD租税委員会主導の元、各国の金融機関が口座保有者の居住国を特定し、税務当局を通じて口座保有者の居住国の税務当局と自動的に情報交換を行う仕組みであるCRS(Common Reporting Standard、共通報告基準)を制定。

2010年にアメリカが導入したFATCAは、一国の税法ながらも強力な法案で、取り決めに参加した第三国の金融機関に対し、情報提供に同意しない口座や取り決めへの参加を拒否する金融機関が有する口座内の米国資産について、30%の源泉徴収を課すよう求めました。
例えば、米国人のAが第三国のB銀行(FATCAの取り決めに参加済)に持つ口座に、米国株を保有・売却することによるインカムゲイン/キャピタルゲインが振り込まれる時、AがB銀行に口座情報の提供を拒否すればそのキャピタルゲインから30%もの金額が源泉徴収されることになります。また、B銀行がC銀行(FATCAの取り決めに未参加)に対して行う支払いの中で、預金や株式など米国資産に起因する支払いも、30%の源泉徴収の対象となります。
この場合、不参加金融機関は、30%もの重税に加え、不参加金融機関の口座維持が参加金融機関の負担となり、参加金融機関から取引を打ち切られるといった不利益を被ることになります。このように、米国は第三国の金融機関をFATCAの取り決めに参加させるよう仕向けたのです。

※FATCAの詳細な仕組みはこちらのサイトが詳しいです:

judiciary.asahi.com

そして2014年にOECD租税委員会が提案したCRSには、2018年時点で90以上の国・地域が参加を表明しており、中にはケイマン諸島、リヒテンシュタイン、マルタ、パナマといった典型的なタックスヘイブンも含まれています。
さらに、CRS参加国がその実施をめぐり、情報交換グローバルフォーラムでメンバー間での相互審査を行う制度も整備されました。審査の結果に応じて非協力国・地域のリストを作成し、リストに載った国・地域に対してG20が防衛的措置を採ることも検討しています。

ここまで説明したところで、租税回避防止を巡る国際協力が、AML/CFTを巡る国際協力と同じ流れをたどっていることがわかります。
つまり、
1. 世界最大の金融市場を抱える米国が皮切りに
2. 先進国が構成員となっている国際機関が主導し、国際的なルールを設定
3. 相互審査を実施して非協力国リストを作成、非協力国には制裁措置を取ることも想定し、多くの国をルールに従わせる
という流れがあったということです。

仮想通貨は新たな "タックスヘイブン" となるのか

今までの議論で、2018年に入り仮想通貨取引による利益の申告漏れを取り締まる動きが主要国で起こっていること、それ以上に、新たな金融システムとしての仮想通貨が租税回避を幇助するのではないかとの懸念があり、その背景にはここ10年で先進諸国が租税回避を問題視し、それを防止するための国際ルールを作り上げてきた経緯がある、と述べてきました。

ここで問題となるのは、本当に仮想通貨が租税回避を幇助しうるのか、ということです。仮想通貨に関わるマネー・ロンダリング規制の整備が一気に進んだ背景には、シルクロード事件や数々のハッキング事件など、インパクトの大きい事件の頻発もあったと個人的には思いますし、逆に仮想通貨を利用した大規模な租税回避事件が明るみに出るようなことがあれば、国際的な規制も一気に進むのではないでしょうか。

では、仮想通貨が租税回避を幇助する可能性について考えてみたいと思います。
仮想通貨とタックスヘイブンとの共通点としては、 多くの国で税制が未整備であること(≒タックスヘイブンでいう低税率)、そして匿名性・機密性の高い取引が可能なことの二点が挙げられます。

これを踏まえると、 個人や企業が所得を仮想通貨で受け取り(または仮想通貨に換え)、税務当局の監視下にない第三国の取引所やOTC市場で現金化することで所得隠しを行う、という手法があり得るのではないかと思いますが、現実的か、メリットがあるかは分かりかねます。(このあたりご意見いただけると幸いです。)

いずれにせよ、このような所得隠しを摘発し防止するためには、資金洗浄の場となりやすく、一部現金化のポイントともなっている想通貨取引所や交換所を規制の対象としていくのが現実的でしょう。マネー・ロンダリング規制の文脈でよく強調されるKYC(顧客の本人確認)取引の監視疑わしい取引の報告は、租税回避防止の文脈でも重視されるようになりそうです。

終わりに

この記事では、マネー・ロンダリング規制に次いで、仮想通貨税制、特に仮想通貨を利用した個人や企業による租税回避防止の領域で、国際的な規制が進むのではないかという見解を、租税回避をめぐる先進国とタックスヘイブンの闘いの経緯を踏まえた上で展開しました。サロンのレポートとして出すには事例が足りず、個人的な想像の域を出ないので、ブログで書くことにしました。
特に、仮想通貨を利用した租税回避が本当に起こりうるのか税負担者にとって実質メリットはあるのか、といったところが詰めきれていないので、各方面からのご意見をお待ちしております!

参考資料(順不同)