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こじらせ女子大生が暗号通貨・ブロックチェーンや中国についてゆるーく語ります。

中国・雄安新区のブロックチェーン事情

こんにちは、こじらせ女子(@icotaku_utgirl)です。
先日、北京・上海・杭州などの大都市以外でブロックチェーンに注力している地域として、中国のハワイ・海南省を紹介しましたが、今回はもう一つ、北方の雄安新区を紹介します。

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雄安新区は北京の南、河北省の中部に位置する地域で、改革開放のもと国家主導の開発が進められた深セン上海・浦東地区に並び、国家戦略の中でも最重要地区に位置付けられています。その中でAIやビッグデータクラウド、そしてブロックチェーンなどの先端技術を活用し、スマートシティを建設する構想もあります。

雄安新区とは

雄安新区(雄安は中国語で「ションアン」と読む)は、北京・天津の105kmほど郊外、河北省・保定市の東部30kmに位置する、雄県・容城県・安新県とその周辺地区を含む地域を指します。「雄安」の名前は雄県と安新県から来ています。

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雄安新区の位置(链视界より)
雄安新区建設により、交通渋滞や不動産価格の高騰など「大都市病」を引き起こした北京の首都機能を分散させるとともに、これまで経済成長が鈍化していた河北省の発展を促し、「京津冀(北京市天津市・河北省)」三地区間の繋がりを産業・経済面で強化しながら調和の取れた発展を目指す、としています。これは改革開放期の深センや上海の浦東新区に続く国家級の開発プロジェクトで、「千年大計、国家大事(千年に一度の国家の大事)」とも言われています。

雄安新区の成立は2017年4月に正式に発表されましたが、その構想は2014年にまでさかのぼります。
2014年2月、京津冀共同発展計画(北京市天津市・河北省の三地区の共同発展を目指す計画)」が重要戦略として中央政府に採択されましたが、この時、北京の首都機能を河北省など周辺地区に分散させる構想が生まれました。この首都機能の移転先が、2016年3月頃には河北省の雄安新区付近に定まりました。

2017年2月には、習近平国家主席が雄安地区の一角である新県を自ら訪問し、都市建設に関する意見交換会に出席、そして2017年4月1日に中央政府が雄安新区の成立を正式に宣言するに至ります。

最先端のテクノロジーを駆使したスマートシティを建設する構想もあり、BATをはじめとするテック企業が拠点を置いて様々な実証実験を進めています。例えばBaiduの自動運転車両、JDの自動配送ロボット、無人スーパー、そして顔認証を使った未来型ホテルも見られます。

diamond.jp

雄安新区で進められているブロックチェーンプロジェクト

スマートシティ計画にはブロックチェーンを活用する構想も盛り込まれており、すでにブロックチェーンを使った二つのシステムが開発されています。
ただしブロックチェーンと言ってもコンソーシアムチェーンのように、取引当事者のみがノードとなり、契約締結や代金の支払いなどのトランザクションをPBFTのようなアルゴリズムに従ってバリデートし、互いに監視しあいながら不正を防止する仕組みであることが分かります。

ブロックチェーンベースの賃貸物件ポータル

物件やオーナー、借り手、契約の情報をブロックチェーンに記録し、当事者間での共有・閲覧が可能なシステムです。これにより、オーナーと借り手との間でお互いを信頼しにくいという問題のために煩雑な手続きが発生し、物件を見つけてから契約成立までに時間と手間がかかる、という問題の解決を図ります。
この賃貸物件ポータルは2018年2月にローンチし、Alibaba傘下のAnt Financial中国建設銀行(中国の四代商業銀行の一つ)、链家(中国の大手不動産仲介業者で、分譲・賃貸物件のポータルサイトも展開)も参画しています。
ただしポータル自体まだ一般公開されておらず、詳細な仕様は不明です。

ブロックチェーンベースの建設マネジメントシステム

インフラ事業において、予算配分、関係者間(ディベロッパー-ゼネコン-下請業者-現場作業員)の契約内容および工事代金/給与の支払い情報などの情報を記録し、関係者間で共有・閲覧できるブロックチェーン上のシステムです。
建設業界ではディベロッパーから建設工事を入札したゼネコンが下請けに工事を外注し、その下請けがさらに工事を外注するという「多重下請け」という仕組みが存在します。この時、ゼネコンに工事を全て一任し、ゼネコンがスケジュールの管理や資材調達といった取りまとめをするのですが、工事を発注したディベロッパーにとっては実際にかかっているコストが不透明な状態になります。中国でも日本でも、実際にゼネコンが資金を横領したという事件が相次いでいます。
この建設マネジメントシステムでは、工事に関わるあらゆる情報を改ざん不可能な状態でブロックチェーンに記録することで、このような不正を防いでいます。
このシステムは2018年8月にはローンチしており、「千年秀林」と呼ばれる植林事業や容城県東部の治水工事、黄河流域のダム建設など、雄安新区で進行している計10億元(160億円)規模のインフラ事業で利用されています。
この中国語の動画では、システムのUIやシステムを利用しているプロジェクトの現場で働く人の反応を見ることができます。
www.youtube.com

二つのプロジェクトの他にも、雄安新区政府はTencentと合同でFintechラボを設立し、その取り組みの一貫としてTencent Cloud上のBaaS(Blockchain-as-a-Service)を現地の民生や行政、民間企業の事業に応用していく計画があります。
さらに2018年7月には、雄安新区の開発を担う国営企業中国雄安集団と業界を代表するブロックチェーン企業・ConsenSysが北京で会談を実施、ブロックチェーン技術をスマートシティ建設にどう応用するかに関して意見交換を行い、MOUを締結しました。

ブロックチェーン産業育成をリードするキーパーソン

雄安地区のブロックチェーン産業育成を担うのが、党工委書記として雄安新区プロジェクトの責任者を務める陳剛氏(チェン・ガン)です。

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陳剛(链视界より)
彼は雄安新区に赴任する前2013年6月〜2017年5月にかけて、南西部の貴州省で省常務委員と省都貴陽市の党委書記とを兼任していました。
貴州省は、数年前まで中国の最貧省の一つに数えられるほどでしたが、冷涼な気候と安価な土地代・電気代を強みに数々の巨大データセンターを誘致、その結果データの活用を狙う企業も集まるようになり、ビッグデータ産業が急速に発展しました。その中で陳剛氏もとあるIT工業団地の建設に関わったといいます。将来有望な政治家を発展途上の地方に派遣して鍛錬する、またある地方で成果を出した政治家を他の地方に派遣してその手腕を発揮させる、といったことは、中国では一般的な地方経済発展の策略です。

彼は貴州省在任当時からブロックチェーンにも着目しており、2016年12月に発表された政府公式レポート『貴陽におけるブロックチェーンの発展と応用(贵阳区块链发展和应用)』の編集を指揮したのも彼だと言われています。
また、Fintechやビッグデータ関連のカンファレンスではブロックチェーンの意義を繰り返し語っています。2017年5月に貴陽市で開催された中国国際ビッグデータ産業展覧会では、「主権ブロックチェーン(主权区块链)」の概念を引用しながら次のように述べています。 「主権ブロックチェーン」は前述の『貴陽におけるブロックチェーンの発展と応用』の中で提唱された、ブロックチェーン技術は国家主権の枠組みの中で発展していくべきだとの考え方を指します。(批判も多いですが非常に中国的な考え方です...)

我们认识到区块链是一种集成技术,是一场数据革命,是一场秩序重建。而我本人有一个观点,区块链更是一个时代的拐点。主权区块链是将主权国家的规制理念植入技术治理之中,从而把技术构架和制度运作有机结合在一起。简单来说,主权区块链的基础是区块链,它完美的将技术创新和制度重构融为一体,是法律规制下的技术之治。主权区块链的发展符合内外因相互作用的基本规律,我们认为它有非常现实的当下意义。

我々は、ブロックチェーンは一種の統合技術であり、データ革命、そして秩序の再構築であることを認識しています。そして私個人は、ブロックチェーンは何よりも時代の転換点だと考えています。「主権ブロックチェーン」は、主権国家の規制概念を技術的ガバナンスに組み込み、技術的枠組みと制度運営とを有機的に組み合わせることを指します。簡単に言うと、技術革新と制度再建の統合、そして法規制の下での技術による統治が、主権ブロックチェーンの基礎となるのです。主権ブロックチェーンの発展は、内外要因の相互作用という不文律に即したものであり、実に現実的な意味を持つと我々は考えています。

総括

いかがでしたでしょうか?
中央政府が重要戦略と位置づける河北省・雄安新区では、大手テック企業や海外ブロックチェーン企業との協力のもと、政府主導でブロックチェーン技術の活用が進み、それがスマートシティ建設の一翼を担っています。そのブロックチェーン産業育成を担うのは、貴州省で一大ビッグデータ産業の創出に貢献し、ブロックチェーンに深い関心を持つ陳剛氏で、彼が今後どのような政策を打ち出すのかにも注目したいところです。

参考

アメリカが支配する国際金融システムと暗号通貨・ブロックチェーンによる対抗

こんにちは、こじらせ女子(@icotaku_utgirl)です。
先日のNHKスペシャルアメリカと中国のテクノロジー覇権争い』では、中国が一帯一路沿線国と共にドルに頼らない国際金融システムブロックチェーンで作ろうとしている、という話が取り上げられていました。

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基軸通貨ドルを擁するアメリカが国際金融システムを支配する状況が長年続いてきましたが、中国と一帯一路沿線国のように、ドルとアメリカによる支配を脱却すべく暗号通貨・ブロックチェーンに注目する国は少なくありません。

今回は、このような動きを理解する上で必須となる米ドル基軸通貨制度に関する基礎知識と、それに暗号通貨・ブロックチェーンで対抗しようとする動きを紹介します。

米ドル基軸通貨制度の概要

国際通貨と基軸通貨

そもそも基軸通貨の定義とは何なのでしょうか。
基軸通貨を包括する概念として国際通貨がありますが、これは国際的な貿易・資本取引において中心的に利用される通貨のことを指します。 そして基軸通貨は、国際通貨の中で最も信頼され、世界レベルで利用されている通貨を指します。具体的には

  • (1)為替市場における取引

  • (2)貿易で使われるインボイス通貨

  • (3)国際金融取引(クロスボーダーの銀行融資や債券)

  • (4)各国の外貨準備

  • (5)紙幣の国外流通(政治・経済状況が不安定な国では他国の通貨が流通することがある)

の5つの側面で優位性を持つものが基軸通貨であると言えるでしょう。
(1)や(2)においては、直接アメリカが絡まない取引でも、ドルが媒介通貨として使われることがポイントです。

基軸通貨ドルとその歴史

具体的にドルが基軸通貨であることを示す統計をいくつか見てみましょう。
まず、2016年度の世界の外国為替市場における通貨別の為替取引シェアでは、ドルが88%と圧倒的首位を占めています(表1)。これは国際決済銀行(BIS)が各年4月の1日平均の取引額のシェアを3年ごとに発表しているもので、ここ20年ほどドルが80%超で首位にある状態が続いています。

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出典: BIS Triennial Survey of foreign exchange and OTC derivatives trading

世界の外貨準備における通貨別割合でも、2000年以降その割合は漸減しているものの、ドルが6割超で首位に立っています。
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出典: 財務省; IMF COFER Statistics

さらに貿易取引で使われるインボイス通貨の割合でも、 SWIFT上で実行された決済において、金額・ボリュームベースでドルが5割を占めています。ユーロ圏内の取引などを除いた超地域的な決済ではドルが8割を占めており、主要インボイス通貨として世界各国間の貿易取引で盛んに利用されていることがわかります。
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出典: SWIFT Worldwide Currency Usage and Trends

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出典: SWIFT Worldwide Currency Usage and Trends

ドルは第二次世界大戦後のブレトン=ウッズ体制確立以来、基軸通貨であり続けています。
当時、アメリカが圧倒的な経済力と軍事力を持ち、世界最大の金保有国でもあったため、ドルに金とのそのドルに各国通貨をペッグする金ドル本位制が成立しました。その後アメリカは戦後復興を図る西側陣営諸国にドル建で援助を行ったり、貿易相手国にドルを使用させるなどして、ドルの基軸通貨としての地位を確立させていきます。
その後アメリカの国際収支は赤字に転落し、1971年に金ドル本位制は崩壊しましたが、既に確立していたドル基軸制度を維持することに経済合理性があったのと、アメリカが依然として世界最大規模の経済・軍事大国であったことから、ドル基軸体制は今日に至るまで続くことになります。

基軸通貨を多様化させようという動きもあり、ユーロ・日本円・人民元基軸通貨候補として名乗りを挙げていますが、基軸通貨としての機能を果たすには

  • (a)通貨価値の安定

  • (b)高度に発達した為替市場と金融・資本市場の存在

  • (c)対外取引規制がないこと

などの条件を満たす必要があり、ドルほどの適任は存在しないというのが現状です。

経済制裁の手段として使われるドル

そんな基軸通貨ドルを擁するアメリカは、ドル中心の国際金融網を経済制裁の手段としてしばしば利用してきました。

2001年の9.11同時多発テロをきっかけに制定された愛国者(PATRIOT ACT、正式名称はUniting and Strengthening America by Providing Appropriate Tools Required to Intercept and Obstruct Terrorism)では、テロ行為を助長する資金の流れを断つため、国内金融機関と取引のある外国金融機関がマネロンやテロ資金供与の主要懸念先に指定された場合、5つの特別措置を発動できることを定めました。その中には、国内金融機関はその主要懸念先となった金融機関のコルレス口座の開設・維持を制限・禁止できるとした条項も含まれていました。

そもそもコルレス口座とは、国際送金のために海外の銀行に開設された口座のことで、当事者となっている銀行間の送金だけでなく、他行間の送金の中継点となることもあります。例えば邦銀Aからドル建で米銀Bに送金する際、全ての邦銀が全ての米銀にコルレス口座を持っているわけではないため、邦銀Aが米銀Bにコルレス口座を持っていないこともあり得ます。その場合、邦銀Aが米銀Cに持っている口座に送金したあと、米銀Cが米銀Bに再び送金することで、邦銀Aから米銀Bへの送金が完了します。
アメリカとは関係ない第三国の銀行同士の決済でも、ドル建で決済が行われている限り一度は米銀のコルレス口座を経由することになります。

したがって、愛国者法に則り米銀のコルレス口座を凍結できるということは、アメリカが直接絡んでいない場合も含めドル建の取引を制御、資産を凍結できるということを意味します。こうして基軸通貨ドルを擁するアメリカは国際金融システムを支配しているのです。

では、さすがのアメリカもドル建でない取引までは支配できないのではないか、ドルではなくユーロや人民元で取引をしてアメリカの経済制裁から逃れることができるのではないか、と思う方もいるでしょう。実際、過去にアメリカから経済制裁を受けたイラクやイランが原油の決済通貨をユーロに変更したこともありました。今や世界最大の原油輸入国となった中国は、人民元建での原油取引開始や上海原油先物市場の開設により、人民元の国際化を進めようとしています*1

しかし、2000年のイラク原油取引のユーロ決済宣言が、最終的に2003年のアメリカによるイラク侵攻を招いたと言われています。また直近では、コルレス口座を持つ米銀だけでなく、ドル以外の国際通貨も含めた決済を広く扱うSWIFTに圧力をかけることで、イランを国際決済網から徹底的に排除しました。SWIFTは世界各国の金融機関が加盟するコンソーシアムで、本来中立的な立場にあるはずですが、今回アメリカの圧力に屈してイランの金融機関を排除することになったのです*2

このようにアメリカは、ドル以外にも自国の安全保障を脅かす資金の流れを食い止める手立てを持っているのです。

対抗策としての暗号通貨とブロックチェーン

そんな中でアメリカの支配する国際金融システムに対抗すべく各国が注目しているのが、暗号通貨・ブロックチェーンです。

ベネズエラが発行した原油ペッグトークン・Petro

ベネズエラによる原油ペッグトークン・Petroは、史上初の国家によるトークンセールで売り出され、一部報道によると7億ドル超の調達に成功したとも言われています*3
ベネズエラに対しては、アメリカが独裁体制を敷くマドゥロ政権を封じ込めるために、政府や国営企業の資金調達手段を封じるなどの経済制裁を課していました。この経済制裁を回避し外貨を獲得するために、ベネズエラ政府はPetroのICOによる資金調達を行いました。
また、Petroは原油1バレルにペッグされており、ベネズエラ原油輸入時の決済通貨としても使われることを想定していました。ベネズエラはかねてから人民元原油決済通貨に指定するなどドル離れを企ててはいましたが、政府自ら発行したトークンを使うことで第三国通貨を使用することによるリスクを回避しようとしたのでしょう。これにより、既存の国際決済網に頼らなくとも、直接Petroトークンで原油取引の決済ができるようになるはずでした。

他にも、ハイパーインフレで使い物にならなくなった自国法定通貨ボリバルに代わり、公共料金の支払いにも利用される想定でした。

しかしPetroプロジェクトは、トークンそのものやウォレットの開発が進んでいない、油田の開発が進まず裏付けとなる原油が調達できないなど問題が山積みとなっています。政府側も、Petroを原油に加え金・鉄・ダイヤモントにバスケット・ペッグすると宣言したかと思えば*4、今度はハイパーインフレで使い物にならないはずのボリバルにペッグすると発表するなど*5と、まさに朝礼暮改という状況です。

Petroの構想自体は経済制裁や既存の国際金融システムを迂回しようという取り組みとして非常に斬新なものでしたが、現状を鑑みると当初のベネズエラ政府の計画を実現するのはほぼ不可能でしょう。

ロシアが外貨準備にビットコインを追加するという噂

今年1月、ロシアが外貨準備として1兆円分のビットコインを購入するという報道が話題となりました。この報道は信頼できる情報源から出たものではなく、フェイクニュースだったのではないかとも言われていますが、この噂が流れた背景にも、アメリカの経済制裁があります。
ロシアはアメリカ大統領選介入疑惑以降、ロシア企業が米銀に保有しているドル資産を凍結されるなどの経済制裁を受けていましたが、それに対抗する形でドル資産(主に米国債)の保有を徐々に減らし、国内企業にも貿易の決済をドルではなくルーブルや他の通貨で行うよう呼びかけるなど、「脱ドル化」を進めてきました。
ロシア政府は2018年を通して、米国債を売却し金をの保有高を増やしてきましたが*6、保管コストが高い金の代わりに一定量ビットコインを外貨準備として加える可能性もゼロではないでしょう。

中国が一帯一路沿岸国と共に作り上げる新たな国際金融システム

年明けのNHKスペシャルで、中国のTAIクラウドというブロックチェーン企業が一帯一路沿岸国と共に、ドルに依存しない国際金融システムをブロックチェーンで作ろうとしている話が出てきました。
プロジェクトの具体像はまだ明らかになってはいませんが、これが実現すればRippleのように各国の金融機関が参加するコーンソーシアムの形を取り、リーダー国である中国の人民元のデジタル版、またはRippleにおけるXRPのような独自通貨がネットワーク上の基軸通貨になると予想されます。このイニシアチブに、イラクやイラン、トルコのようなアメリカからの制裁に苦しむ国家が参加すれば、反米連合による強力な国際決済網が形成され、ドルとアメリカの地位に深刻な影響を及ぼしかねません。

まとめ

今回の記事では、基軸通貨ドルを擁するアメリカによる国際金融システムの独占支配と、暗号通貨やブロックチェーンを頼ってそれに対抗する動きを紹介しました。
前回取り上げたパブリックチェーンの耐検閲性と中国の新法規制にも通じる点ですが、国家権力への対抗こそ、P2Pでの価値の移転を可能にするブロックチェーンが最も威力を発揮する場面だと個人的には思っています。特にビットコインイーサリアムなど、運用開始から長い年月が立ち、バリデーターもトーク保有者も匿名で世界中に分散しているネットワークであるほど、もはや制裁を課すことは不可能で、国家権力に対してその威力を発揮するでしょう。
記事で取り上げた3つのケース以外にも、国家主導での暗号通貨の発行*7ビットコインによる貿易取引の決済*8など、関連するニュースが続々と出てきています。今後も暗号通貨やブロックチェーンが、アメリカが掌握するドル中心の国際金融システムにどのような影響を与えていくのか、注目していきたいところです。

中国がブロックチェーンへの検閲を開始!?新規制『ブロックチェーン情報サービス管理規定』を読み解く

こんにちは、こじらせ女子(@icotaku_utgirl)です。

久しぶりの投稿となってしまいましたが、今回はブロックチェーンの検閲なのではと波紋を呼んでいる中国の新規制『区块链信息服务管理规定(ブロックチェーン情報サービス管理規定)』について、その内容と背景を解説した上で、新規制がブロックチェーンに与える影響、そしてパブリックチェーンの匿名性と改竄耐性がもたらす二面性について考察していきます。

区块链信息服务管理规定(ブロックチェーン情報サービス管理規定)とは

区块链信息服务管理规定(以下、ブロックチェーン情報サービス管理規定で統一)は、ブロックチェーン情報サービス提供者を当局の管轄下に置き、国家や社会に脅威を与えたり、個人の権利を侵害したりするような言論の防止を目的とする規制です。

従来型のWebサイト・アプリに対しては、ICP(Internet Content Provider)登録またはライセンス取得義務を課すことで当局の管轄下に置いていましたが、今回の規制の施行でブロックチェーン技術をベースとするものも当局の管轄下に置いた形になります。
去年10月19日に草案が出された後、3ヶ月の審議を経て1月10日に発布、2月15日より施行されました。

※中国のWebサイトを見るとページ下部に必ず「京ICPXXXXXXXX号」のような番号が振ってありますが、「京」は届出先の市または省(京は北京)、その後の8桁の数字がICP番号を表しています。

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(参考)Huobi China公式HP下部のICP登録番号

※ICP登録・ライセンスについて詳しくはこちらをご覧ください。

beyondjapan.com

そもそも規制の対象とされるブロックチェーン情報サービス」およびブロックチェーン情報サービス提供者」については、以下のように定義されています。

第二条 本规定所称区块链信息服务,是指基于区块链技术或者系统,通过互联网站、应用程序等形式,向社会公众提供信息服务。
本规定所称区块链信息服务提供者,是指向社会公众提供区块链信息服务的主体或者节点,以及为区块链信息服务的主体提供技术支持的机构或者组织;本规定所称区块链信息服务使用者,是指使用区块链信息服务的组织或者个人。

第二条 本規定におけるブロックチェーン情報サービスとは、ブロックチェーン技術をベースにWebサイトやアプリケーションなどの形式でユーザーに情報サービスを提供する主体を指す。
本規定におけるブロックチェーン情報サービス提供者とは、ブロックチェーン技術をベースにユーザーに対して何らかの情報コンテンツを提供する主体またはノード、およびそのような主体に対し技術的支援をする組織を指す。

したがって「ブロックチェーン情報サービス」とは、ブロックチェーン上に構築され何らかの情報コンテンツを配信するWebサイトやアプリを指しており、ブロックチェーン関連の発信をしていながらもブロックチェーン上に構築されているわけではない従来型のWebサイトやアプリ・WeChatの公式アカウント等は、「ブロックチェーン情報サービス」には含まれません(これらはいずれもICP登録・ライセンスで規制されています)。
また、Webサイトやアプリだけでなく、その土台となっているプロトコルや、プロトコルのバリデーターノード、Webサイト・アプリに統合されているウォレットや取引所も「ブロックチェーン情報サービス提供者」に含まれます。

ブロックチェーン情報サービス提供者」が守るべき原則は以下の通りです。

第十条 区块链信息服务提供者和使用者不得利用区块链信息服务从事危害国家安全、扰乱社会秩序、侵犯他人合法权益等法律、行政法规禁止的活动,不得利用区块链信息服务制作、复制、发布、传播法律、行政法规禁止的信息内容。

ブロックチェーン情報サービス提供者およびそのユーザーは、当サービスを利用し、国家の安全を脅かす、社会秩序を乱す、他人の法的に守られた権利を侵害する、その他法律で禁止された活動に従事してはならない。また、当サービスを利用して法律で禁止された内容を制作、コピー、公開、拡散してはならない。

具体的に、「ブロックチェーン情報サービス提供者」には以下のような要求が課されています。

  • サービス提供開始から10日以内に区块链信息服务备案管理系统(政府機関が設置したポータルサイト)から、事業者名、サービス種別・形式、サーバーアドレス等の必要事項を届け出る。
  • その後サービス内容やIPアドレスの変更など、届出内容の変更が生じた場合、5日以内に変更手続きを行う。
  • 政府の定期考査にあたり、必要な情報を提供する。
  • サービス利用者のID番号、電話番号、法人番号を収集し本人確認を行う。
  • 利用者がサービス内で公開した情報は過去6ヶ月分を保存し、当局の合法的な要請があった場合、その情報を提供する。
  • 利用者がサービス内で違法な行為に及んだ場合、警告や、機能の制限、アカウント停止などの処置をとった上で、問題となっている内容の拡散を防止、記録を保存し、当局に報告する。

新規制導入のきっかけとなった事件

今回の規制がこれほどのスピードで施行されるに至った背景には、2018年に起こった二つの事件があります。いずれも国家への信頼を揺るがすスキャンダルの暴露が波紋を呼び、検閲でWeb空間から削除された後、Ethereumブロックチェーン上に半永久的に刻まれた、という事件でした。

2018年4月 大学教授のスキャンダル摘発とそれに対する大学側の圧力

時は遡り1998年、当時の北京大学教授が女性大学生に性的暴行を加え、最終的にその女子生徒の自殺を招いた事件を、2018年4月に同大学の生徒が摘発。アメリカから始まった#Me too運動が中国にも広がった折のことでした。
この生徒は摘発に関わったことで、北京大学側から家族ぐるみで不当な圧力を受けており、助けを求める旨を記した声明文をメディアに発表したものの、検閲で直ちに削除されました。しかしその後、この声明文がEthereumブロックチェーン上に書き込まれ、一連の事情が世間に知れ渡ることとなりました。
その声明文はこのトランザクションに含まれ、インプットデータをUTF-8に戻すと英語・中国語で閲覧できます。

2018年7月 大手製薬会社の不正ワクチン事件

2018年7月、元国有の製薬大手・長春長生が、狂犬病ワクチンの製造過程で記録を偽造していたことが発覚しました。同社は、過去に製造したジフテリア、百日咳、破傷風の3種混合ワクチンが品質基準を満たしていなかったことが、ワクチンが既に出荷され山東省の25万人の児童に注射された後に発覚したという前科も負っていました。この二つの事件とそれを招いた社内を暴露した文章が発表され、ネットで拡散されたものの、検閲を受けて削除されました。しかしまたもEthereumブロックチェーン上に書き込まれ、このトランザクションのインプットデータで閲覧できるようになっています。

反国家・反体制的な言論がブロックチェーン上に残されるというこの二つ事案を受け、当局は直ちに法案を作成、3ヶ月というスピードで施行にこぎ着けたと考えられます。

中国国内のブロックチェーン関連企業への影響

ではこの新規制は、中国国内で事業展開するブロックチェーン企業、特にパブリックチェーンにどのような影響を及ぼすのでしょうか。

中国では、2017年9月にICOが全面禁止となった後、中国発でも海外でトークンを発行し国内で開発を進めるという体制を取ってきたパブリックチェーンプロジェクトが多いですが、国内で開発を進めている企業も「ブロックチェーン情報サービス提供者」として規制の対象となると考えられます。

また、中国国内のDApps開発企業だけでなく、アプリが構築されたブロックチェーンの開発主体やチェーン上のバリデーターノードも規制の対象となりますが、この点がブロックチェーンへの検閲ではないか」と言われる所以のように思います。
このように規制の範疇は広く設定されていますが、どこまで以下の要求を対象となる主体に課しうるのか、アプリケーションレイヤーとプロトコルレイヤーに分けて考察してみます。

  1. 届出と業登録
  2. ユーザーのKYC
  3. 記録の保存と必要に応じて当局への開示
  4. 問題のある内容が公開された場合、その内容の削除や拡散の防止など事後的な処理 

まずはアプリケーションレイヤーでは、アプリ運営主体が存在する限り1,2,3は可能です。ただ4に関しては、KYCを行なっている以上アカウント凍結や同じKYC情報での登録の禁止は可能ですが、ベースのチェーンで問題のある内容を含むトランザクションがブロックに含まれていると、それにアプリケーションレイヤーで対処するのはほぼ不可能です。チェーンやアプリの仕様によっては、Steemit事件のように、チェーンには残っていてもアプリUI上では隠すこともあり得ますが、チェーンに記録が残っている以上何らかの方法で問題の内容を確認することはできてしまいます。

ではプロトコルレイヤーではどうでしょうか。これはチェーンのガバナンス形態開発主体の形態に大きく左右されます。

まずパーミッション型で明確な運営主体が存在するプライベート・コンソーシアムチェーンでは、1,2,3は可能で、4に関しても少数のバリデーターが問題のあるトランザクションをブロックに含まないという合意形成をすることもできます。

一方、ビットコインイーサリアムなど、パーミッションレス型で開発者コミュニティが各地に分散しているパブリックチェーンでは、1,2すら困難でしょう。4に関しても、バリデーターが匿名で流動的なため、問題のあるトランザクションを制限するのは非現実的です。(なお3は、過去のトランザクションが公開されているというパブリックチェーンの性質上、自動的に行われているとも言えます。)

ではパーミッション型に近いパブリックチェーン 、つまりNEO・Ontology・EOSなどはどうでしょうか。バリデーター・バリデーター候補や開発主体が少数に限られ、その身元も明らかになっている場合、中国を拠点とするバリデーター・開発主体に1〜4を要求することはあり得ます。それでも海外拠点で中国当局の規制の手が及ばないバリデーターが一定数存在する限り、問題のトランザクションがブロックに含まれるのを阻止するのは難しいでしょう。
ただしNEOは例外で、67%以上のバリデーターの承認でブロックが追加される仕様(33%耐性のチェーン)でありながら、現時点では67%以上に当たる5/7のバリデーターノードをNEO財団が運営しているため、これらが規制に従い問題のあるトランザクションを棄却することは可能です。

今回の規制が波紋を呼んだのは、これまで検閲耐性があると言われてきたパブリックチェーンにまで検閲が及んでしまうのではないかという懸念だったように思いますが、以上の考察から、バリデーターや開発主体がある程度分散しているようなチェーンでは、中国国内のバリデーターや開発主体を規制下においても検閲耐性を奪うことはできないのではと、個人的には考えています。
なおこれはかなり単純化された考察で、オフチェーンや2ndレイヤー技術(サイドチェーンなど)を考慮していないため、不足するところも多々あるかと思います。気づいた点があればコメントやTwitterのリプライ、DMにてご指摘いただければ幸いです。

パブリックチェーンの検閲耐性を巡る是非

最近、9.11関連の機密事項がSteemitに暴露された事件や、BSVチェーンに児童ポルノ画像が含まれていた事件もあり、匿名性と改竄耐性がもたらすパブリックチェーンの耐検閲性の是非が問われているように思います。この耐検閲性は、軽い嫌がらせから誹謗中傷、より深刻な場合はBSV事件のように人権侵害に悪用されることもあれば、中国の大学教授スキャンダル摘発事件・不正ワクチン事件、そして911事件のように、従来のWeb空間の代わりに政府や体制を揺るがす情報の暴露に用いられ、政治的パワーを持つこともあります。

今回の新規制で、中国は(当局が期待している効果が得られるかは別として)耐検閲性を持つと言われていたパブリックチェーンをあえて検閲する方針に出ましたが、他国政府はどのような態度をとるのか、またパブリックチェーンやそれに紐付くサービスの利用者として私たちはどう対応するのか、さらなる議論の必要性がありそうです。

参考

取引所・マイニングに並ぶ主要業態:中国のBaaS企業の実態とは

こんにちは、こじらせ女子(@icotaku_utgirl)です。

中国のブロックチェーン企業と聞いて皆さんはどのような企業を思い浮かべるでしょうか。今や世界最大級の取引所へと成長したBinance・Huobi・OKExやマイニング事業最大手でIPOも検討しているBITMAINが真っ先に頭に浮かんでくるのではないかと思いますが、もう一つ、特に中国のブロックチェーン業界で存在感を発揮している業態があります。
それはエンタープライズ向けのBaaS(Blockchain-as-a-Service)を開発する企業です。

これらの企業が開発・提供しているのは、オープンソースで開発がなされ誰でも台帳の維持・管理に参加できるビットコインイーサリアムのようなパブリックチェーンではなく、ライセンス契約のもと、特定の企業内や企業間連合でプライベートチェーンコンソーシアムチェーンとして利用されることを想定したブロックチェーンインフラです。
また、ブロックチェーン関連の特許申請でアメリカ企業と中国企業が張り合っていることも一時期話題になりましたが、上位にランクインしている中国企業のうちのほとんどが、BaaSの開発を手がける企業でもあります

今回はそのような企業の特徴や実績を概観していきます。

中国におけるパブリックチェーンとプライベート/コンソーシアムチェーン

中国で中央・地方政府および企業、そして教育・研究機関がいずれもブロックチェーンの研究開発に力を入れていることは既に周知の事実でしょう。 元々は2011年頃から一部の技術者たちにビットコインが注目され始め、2013年頃からマイニング機器メーカー(BITMAIN、Canaan取引所(OKEx、Huobi)メディア(8BTC)プロトコル開発(NEOの前身であるAntshares)など、様々な業態のブロックチェーン企業が登場し始めました。

プロトコルの中でも、NEOやTRONのようにパブリックチェーンを開発する企業もあれば、企業向けのプライベートチェーン・コンソーシアムチェーンに特化する企業もありましたが、2017年9月の取引所・ICO禁止令でトークンの発行が禁止されると、パブリックチェーンを手掛ける企業の中国国内での活動が困難となりました。不特定多数のノードにより台帳が維持・管理されるパブリックチェーンでは、ネットワーク上でやり取りされる価値として以上に、台帳の維持・管理に貢献しているノードに払う報酬としてのトークが必要不可欠であり、取引所・ICO禁止令は、そのトークンを他の仮想通貨と交換したり(取引所)、前もって配布しておく(ICO)ことが国内でできなくなることを意味したからです。
その結果、2017年9月以降の中国発パブリックチェーンは、中国を出て海外でトークン発行を行うようになり、国内での目立った活動を控えるようになりました。(もちろん開発チームを国内に置く、提携先を国内で探すといったことは行われています。)

一方で、台帳の管理者が元々決まっており、報酬としてのトークン発行の必要がないプライベートチェーンやコンソーシアムチェーンは、規制の影響を受ける事なくそのまま国内に残り発展を続けました。ネットワークの分散性を保つため、また国内でトークン配布ができないこともあり、海外マーケティングに力を入れるパブリックチェーンプロジェクトとは対照的に、プライベート/コンソーシアムチェーン開発企業は主に国内のクライアントを相手にしているため、日本含め海外では名前が知られていない企業がほとんどです。

実は中国初のパブリックチェーン として知られるNEOも、その母体企業であるOnChainは、企業向けにプライベート/コンソーシアムチェーンの導入支援を行なっています。元はパブリックチェーンであるAntshares(NEOの前身)の開発に専念していましたが、企業や政府からの需要を受け、各顧客に合わせてプライベート・コンソーシアムチェーンの開発や導入支援を行う企業として、OnChainを立ち上げたという経緯があります。

そして、総合IT大手のBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)も、ブロックチェーン領域にも力を入れていることが知られていますが、これらが開発しているのもプライベート・コンソーシアムチェーンとしての利用を想定したBaaS(Blockchain as a Service)です。

なおBaiduが手掛けるBaaS・XuperChainは、今年Q1を目処にオープンソースとなることが予定されています。 これについては以前仕様や応用例を紹介した記事を書いたので、ぜひご覧ください。

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創業数年のスタートアップでありながら華々しい実績を残す企業も

国内で名が知られているBaaS企業は、ほとんどが2014年〜2016年に創業された比較的若い企業ですが、貿易金融証券取引と決済サプライチェーンチェーン・ファイナンス、金融以外では食品トレーサビリティ医療データ管理など幅広い領域で、その業界の大手と提携しながらブロックチェーン技術の導入を進めています。

このような実績が評価され、数億〜数百億円規模の資金調達に成功したり、時価総額が1億ドル以上の「準ユニコーン企業」として認定された企業もあります。
これらの企業は、例えば北京であれば清華大学杭州であれば浙江大学など、拠点がある現地のトップスクールと研究室を立ち上げるなど、産学連携での研究開発にも積極的です。

例えば、以下は杭州市に本拠地を置くHyperChainの顧客・共同研究相手一覧ですが、 中国人民銀行(中国の中央銀行)、中国工商銀行中国建設銀行・中国光大銀行のような国内メガバンク、デビット・クレジットカード大手のUnionPay上海・深セン証券取引所、そしてintelMicrosoftGoogleのようなIT大手の名がズラリと並んでします。
HyperChainは2016年に設立されたBaaS企業ですが、2018年6月にはラウンドBで15億元(約240億円)もの資金調達を行い、「準ユニコーン企業」の仲間入りを果たしました。

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HyperChain 公式HPより

特許取得にも注力

ブロックチェーン領域で、アメリカ企業対中国企業の特許取得競争が激化していることが一時話題となりましたが、この競争に中国サイドで参加しているのも、ほとんどがBaaS提供企業です。
IPR Dailyが発表した2018年度のブロックチェーン関連の特許申請数ランキングでは、アメリカ対中国の様相を呈しているとして話題になりましたが、上位20位にランクインした14の中国企業のうち8社(Alibaba、Tencent、Chain33、RChain、Bubi、YunPhant、SinoChain、OneConnect)が、BaaSを提供している企業です。

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2018年度ブロックチェーン特許申請数(赤字は中国のBaaS企業、IPR Dailyより)

本来オープンソースで開発が進められるべきブロックチェーン領域で、特許取得を目指すのはナンセンスだという意見も存在しますが、そもそもプライベート/コンソーシアム・チェーンとしての利用を想定したBaaSは、誰でも利用できるパブリックチェーンとは異なり企業とのライセンス契約の上で提供されること、さらに様々な業界の顧客の要望に合わせて研究開発を行う中で発明した特殊機能に対する特権を守る必要があることを考えると、これらの企業が特許取得に力を入れるのは当然のことではないかと考えられます。(もちろん、プライベート/コンソーシアム・チェーンとして利用するくらいならブロックチェーンである蓋然性はあるのか、という論点もありますが。)

主要BaaS専業スタートアップの紹介(一部)

では数あるBaaS企業の中でも突出した実績を持つ5社を紹介します。

HyperChain(趣链)

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2016年に浙江大学清華大学出身者らにより杭州で設立。企業向けBaaSとその導入支援を行うほか、ディベロッパー向けのスマートコントラクト開発ツールの提供、NetEaseとの合同事業としてブロックチェーンのオンライン教育コンテンツの配信も行う。前述のように多数の大手金融機関や情報通信大手を顧客に持ち、時価総額1億ドル超の「準ユニコーン企業」でもある。

OnChain(分布科技)

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2016年にNEOのコアメンバーが上海で設立。コアメンバーは2014年前半からパブリックチェーンであるAntsharesの開発を進めていたが、企業や政府のプライベート・コンソーシアムへの需要の高まりを受け、その技術開発や導入支援を行う企業としてOnChainを創業。Microsoftとの電子署名システムに関する共同研究や、ビッグデータ先進地域として存在感を増す貴州省とデジタルIDに関する共同研究に従事し、HyperLedger Fabricにも参画。KPMGのTop50 Fintech Company in Chinaにも選出。(厳密に言えば、OnChainは顧客ごとに開発や導入支援を行う形で、BaaSを提供しているわけではない。)

CryptoApe(秘猿科技)

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2011年よりEthereum開発に貢献してきたエンジニアが中心となり、2016年に杭州で設立。BFT系の独自コンセンサスを実装したブロックチェーン・CITA(Cryptape Inter-enterprise Trust Automation)や、商用のパブリックチェーン・Nervosの開発を手掛ける。研究開発にあたっては、中国有数のメガバンクである招商银行、そして清華大学北京大学といった国内トップクラスの教育/研究機関とも連携。

RChain(瑞链科技)

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NYSE上場企業のXinyuan Real Estateの出資を受け、メガバンやfintechでの豊富な経験を持つメンバーが2015年に設立。BaaSプラットフォームのX-BoltをIBM中国の技術支援のもとで開発。また、金融業界向け(存取宝)、トレーサビリティシステム向け(溯源宝)、及び店舗向けロイヤルティポイントシステム向け(积分宝)と、用途に特化した主力商品を複数展開している。

太一クラウド(太一云)

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2014年、連続起業家でクラウドコンピューティングの領域で突出した知見を持つ鄭迪により設立。BaaSの中でも、知財権保護に特化したもの(公有云)とカスタマイズ可能なもの(企业云)の二種類の製品を提供。後者は株式・債券の取引、信用スコア、IoT、エネルギー、医療、保険など多様な分野への応用が可能。2016年よりHyperledgerプロジェクトにも参画。CEOの鄭は、2017年・2018年に連続で中国ブロックチェーン業界の代表としてダボス会議に出席した経験を持つ。
先日のNHKスペシャルにも、米ドル基軸通貨制度に対抗しうる国際決済システムの構築に協力している企業として登場。

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総括

中国のブロックチェーン企業といえばマイニングや取引所が真っ先に思い浮かびますが、国内ではプライベート/コンソーシアムチェーンとしての利用を想定したBaaSの開発と導入支援を行う企業も多く、創業数年ながら華々しい実績を誇り高い評価を獲得している、という話でした。
中国では取引所の運営やICOによるトークンの発行が禁止されていますが、ブロックチェーン技術自体は中央・地方政府の産業振興策上重要なテクノロジーであり、民間企業もその導入に積極的です。その研究開発や実世界での応用に貢献しているのが、今回紹介したようなBaaS企業なのです。グローバル展開している取引所やマイニング、パブリックプロトコルとは異なり、海外では知名度が高くない企業がほとんどですが、中国ブロックチェーン業界の重要な一角を占める業態として、覚えていただければ幸いです!

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おさえておくべき中国ブロックチェーン業界のキーパーソン

こんにちは、こじらせ女子(@icotaku_utgirl)です。

中国は、世界の中でもかなり早くからビットコイン愛好家・投資家のコミュニティが形成された国であり、2016年には世界最大級のビットコイン取引市場およびマイニング市場となりました。ICO禁止や取引所の閉鎖が命じられた2017年9月以降も、パブリックプロトコル、BaaS、ウォレット、取引所など様々な業態が繁栄を続け、中国のブロックチェーン業界は現在に至るまで世界から高い関心を集めています。
そんな中国ブロックチェーン業界の発展を担い、今でもその中枢に君臨しているのが、「币圈大佬(界隈の大御所)」と呼ばれるキーパーソンたちです。彼らのバックグラウンドや特徴を押さえておけば、中国関連のニュースをより深く理解し楽しめること間違いなしです
この記事では10名のキーパーソンを一挙に紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

李笑来

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自称「ビットコイン大富豪」で、ファンド・INBlockchainのCo-Founder。元々英会話スクール・新東方の教師として教鞭をとり、英語教育に関する著作を発表していたが、2011年からビットコイン投資をはじめ、ビットコインエバンジェリスト、およびエンジェル投資家として精力的に活動。ビットコイン保有枚数は6桁(位数は1)と言われるほどである。彼が率いるINBlockchainは、杭州の官民共同ブロックチェーンファンドの運用にも関わっている。

郭宏才(Chandler Guo/宝二爷)

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ブロックチェーンファンド・BitAngelのFounder。元々は山西省の牛肉加工業者で営業部門の責任者を務めていた。営業を学ぶため北京に出てきたものの、思いがけずビットコインに熱中することになり、2014年には内モンゴルに世界最大級のマイニングファームを建設。2016年、ダボス会議に招待された折にはTシャツに短パンというカジュアルな出で立ちで現れ、スーツ姿の伝統金融出身者たちに向かって演説を行ったことが話題となった。2017年には良質なICOプロジェクトの育成を目的としたサロンである「黄埔军校(孫文が広州に設立した陸軍養成学校になぞらえた命名)」を主催、9月にICO禁止令が出されるまで精力的に活動を行った。BitAngelを通じてブロックチェーン事業投資も行う。

赵东(Dong Zhao/黑庄东・东叔)

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中関村のGarage Cafeのオーナー兼エンジニア、DFund Founder。天気情報アプリ開発会社を企業、事業が軌道に乗り売却に成功した後、北京・中関村のカフェ・Garage Cafeの経営に参加。Garage Cafeに集まる起業家たちに対し無料で技術面の指導を行い、自らも事業投資をしていた。やがて李笑来郭宏才などのビットコイン愛好家たちもカフェに集まるようになり、彼らの影響で赵东自身もビットコイン投資に熱中、李笑来の勧めもありGarage Cafeにビットコイン決済を導入したほどである。他にも中国各地にマイニングファームを所有したり、DFundを設立してICO投資を行うなど、幅広い分野で活動。

沈波(Shen Bo)

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大手ブロックチェーンファンド・Fenbushi CapitalのFounder。伝統金融の出身で、証券投資やヘッジファンドなどの領域に豊富な知見を持つ。BitSharesの前身・Invictus Innovation Incorporatedに参画した後、2015年7月に万向グループ(1969年に設立された老舗の自動車部品メーカー)の肖风およびVitalikと共同でFenbushi Capitalと万向ブロックチェーン実験室を設立。Fenbushi Capitalを通じてblock.oneやCircle、Dfinity、Polkadotなど多数の名プロジェクトに投資。

吴忌寒(Jihan Wu)

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マイニング機器世界最大手・BITMAINのFounder&CEO。北京大学を卒業後投資会社に務めていたが、2011年頃からビットコインに熱中し、ブロックチェーンメディアの8BTCを創業。その後2013年にBITMAINを創業、AntMinerシリーズを主力製品に世界各地に事業を展開、一時期評価額150億ドルとも言われるほどにまでBITMAINを成長させた。中国で最多のビットコインを持っているのは李笑来との説が主流だが、吴忌寒こそ最大のホルダーなのではないかという噂も存在するほどである。

赵长鹏(ChangPeng Zhao/CZ)

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世界最大級の取引所・BinanceのFounder兼CEO。愛称の"CZ"は、中国語名"Changpeng Zhao"からつけられている。カナダの大学を卒業した彼は日本で東京証券取引所のオーダーマッチングシステム開発に携わった後、起業やウォレット開発会社を経て、OKCoinの設立に関わる。OKCoinを一年で退職し、Binanceを創業。創業から半年間で、出来高ランキングトップ3に入る世界最大級の取引所に成長させる。2018年2月にForbsが発表した暗号通貨業界の富豪ランキングでは3位にランクインし、Forbs紙の表紙を飾った。

何一(He Yi)

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BinanceのCo-Founderで、CZと並ぶBinanceの看板的人物。美術の教師としてキャリアをスタートし、その後旅行番組のMCを務めた彼女は、2014年にOKCoinの創業メンバーとして電撃的な業界デビューを果たした。OKCoinではVice Presidentとして中国国内市場での拡大に貢献。OKCoin退職後は動画SNSを手がけるユニコーン企業・一下科技に勤めたが、2年も経たないうちにBinanceのCMOとして再び暗号通貨業界に復帰。中国では"币圈一姐(暗号通貨界隈のお姉さま)"として親しまれている。

李林(Leon Li)

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世界最大級の取引所・HuobiのCo-Founder&CEO。清華大学大学院を卒業した彼はオラクル社に務めた後、SNSや共同購入サイトを相次いで創業。一方で2011年頃からビットコインにも注目し始め、2013年にHuobiを創業。創業から1年以内にシリーズAでZhen FundやSequoia Capitalなどから資金調達を行い、Huobiを国内最大の取引所へと成長させることに成功した。

杜均(Du Jun)

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世界最大級の取引所・Huobi Co-Founder、中国の大手ブロックチェーンメディア・金色財経のFounder&CEO、およびブロックチェーンファンド・Node CapitalのFounder&CEO。父親の影響で幼少期からお金に対する執着が強かった彼は、中学生の頃からオンラインゲームで装備を売るなどして小遣い稼ぎをしていたという。大学を中退し一度は飲食店でアルバイトをする日々を過ごすも、縁あってSNSを開発するIT企業に就職。なおこの企業は後にTencentに買収されることになる。2013年、李林らとともにHuobiを創業、1年ほどCMOを務めた後、メディア・金色財経とファンド・Node Capitalを創業。Huobiを離れた今もその大株主であり続けている。

徐明星(Star Xu)

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世界最大級の取引所・OKExおよびその前身であるOKCoinのCo-Founder&CEO。北京大学や清華大学に次ぐ名門校・中国人民大学を卒業、同校修士課程を中退後、Yahoo中国支部に勤める。その後2007年にオンライン文庫サービスを創業、CTOとして同社をフォーチュン・グローバル500にまで成長させる。2013年にはOKCoinを創業、Tim Draperらから資金調達を行い、国内最大の取引所へと成長させた。しかし最近では、OKExの度重なるシステム障害で損失を被った投資家が徐のもとに押し寄せたり、2018年9月には詐欺に関わったとして徐自身が上海警察に拘束されたりと、何かと業界を騒がせる存在でもある。

まとめ

いかがでしたでしょうか。いずれの人物もビットコイン取引、そして取引所やマイニングのような、上げ相場において非常に高い収益を見込める事業で財を成し、次第に裾野を広げていったことがわかります。
一方で、この10名の中には北京大や清華大のような最高学府出身の連続起業家もいれば、伝統金融出身者もおり、そして元地方の食品加工業者や元番組MCのようなIT業界には非常に珍しいバックグラウンドを持つ者もいます。このような違いは彼らの事業方針から普段の言動にまで現れており、それを踏まえて中国ブロックチェーン業界の動向を追っていくのも面白いのではないでしょうか。

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ブロックチェーン初心者に捧ぐ:つかんでおくべきブロックチェーンの全体像から周辺ビジネス概観、オススメの勉強法まで

こんにちは。こじらせ女子(@icotaku_utgirl)です。

よく周りから「ブロックチェーンを勉強したいがどこから始めれはいいのか「ブロックチェーンを勉強するとき、何を参考にすればいいのか」といった質問を受けることがあります。そこで今回は、ブロックチェーンを勉強する上で掴んでおくべき全体像を説明した上で、参考にすべき書籍やニュースメディア、KOL(Key Opinion Leader)等を紹介したいと思います。

そもそもブロックチェーンとは何か:つかんでおくべき全体像

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ブロックチェーンといってもまだ私達の日常生活との関わりは薄く、日本では仮想通貨の投機の流行やハッキング事件の発生もあったので、「技術寄りで仕組みはよくわからないけど、仮想通貨に関わっていてリスキーなもの」といった負の印象を抱いている人も少なくないかもしれません。私自身も「ブロックチェーンということはビットコインを勉強しているの?」「なぜブロックチェーンだけではなくて仮想通貨が必要なの?」と聞かれることもあり、ブロックチェーンと言えば仮想通貨やビットコインを連想する人が多いように思います。

そんな人にはブロックチェーンの全体像ブロックチェーンと仮想通貨の関係をざっくり理解した上で、勉強をすすめて欲しいと思います。

ブロックチェーンとは

ブロックチェーンとは簡単に説明すれば、特定の中央集権的管理者ではなく複数の管理者によって管理・維持されているネットワークです。例えば銀行では、その金融機関自身が振込などの取引の成立を承認し、一元的に台帳を管理していますが、ブロックチェーンでは複数のコンピューターで取引を承認し、同じ台帳を共有・管理しています。なお狭義のブロックチェーンは、承認された取引情報が格納されたブロックが数珠つなぎになったものを指します。
ブロックチェーンはビットコインを支える技術ではありますが、ビットコイン以外にも様々な種類が存在します。大まかには取引の承認や台帳の維持・管理に誰でも参加できるか否かで、パブロックチェーンプライベート/コンソーシアムチェーンの二種類に別れます。

パブリックチェーン

誰でも参加できる(パーミッションレスな)パブリックチェーンでは、悪意のある参加者も含まれる恐れがあるため、それらを排除し正しい取引の承認を促すような合意形成方法およびインセンティブ設計コンセンサスアルゴリズム)が必要となります。このコンセンサスアルゴリズムが、PoW(Proof of Work)PoS(Proof of Stake)と呼ばれるもので、取引承認に対して与えられる報酬が仮想通貨です。つまり仮想通貨はネットワーク上でやり取りされる通貨でもあり、ネットワーク維持に貢献した者に付与される報酬でもあるのです。よってネットワークで送金を行う者は利用料としてこの報酬を負担する必要があり、この報酬を取引実行者から手数料として、または新たな通貨の発行により獲得する行為がマイニングです。

パブロックチェーンの代表例はビットコインイーサリアムです。ビットコインはもっぱら決済に使われますが、イーサリアムは「Aという条件を満たせばBを実行する」というような条件をコードで書いて自動執行させる機能(スマートコントラクト)を持ちます。例えばイーサリアムを用いたICOでも、例えば特定のアドレスに1ETHを送ると10XYZトークンを発行し送り返す、というようなスマートコントラクトが書かれています。他にも予測市場やP2Pレンディングなど、様々な領域でスマートコントラクトは活用されています。

ryuさんのMedium記事のパブリックチェーンの説明が非常にわかりやすいので、こちらもあわせてご覧ください。

medium.com

パブリックチェーンのメリット:

  • 中央集権的な管理者による検閲や改竄を受けない。
  • 複雑な暗号学的計算によって取引の正しさが担保されているため、悪意のある参加者が一度承認された取引を改竄することはほぼ不可能である。
  • 取引台帳が公開されており透明性が高い。  

パブリックチェーンのデメリット:

  • 台帳が公開されておりプライバシー保護の問題がある。
  • 取引承認に関わる参加者が多く合意形成(取引の成立)に時間がかかる。
  • ネットワークが混んでいる時には高い手数料(マイニング報酬)を支払う必要がある。

分散性・安全性・スケーラビリティパブリックチェーンのトリレンマとも言われていますが、パブリックチェーンの代表格であるビットコインとイーサリアムは、分散性と安全性に優れている一方でスケーラビリティ(処理速度)に課題を抱えています。分散性や安全性をできるだけ保ちながらスケーラビリティを向上させようと、サイドチェーンシャーディングのようなソリューションや、DPoSなどのコンセンサスアルゴリズムが提案されているという状況です。

プライベート/コンソーシアムチェーン

参加者が限られる(パーミッションドな)コンソーシアム/プライベートチェーンは、それぞれ一つの組織内や複数の組織によるコンソーシアム内で使われるブロックチェーンです。参加者が決まっているため、正しい取引の承認を促すためのインセンティブとしてトークンを発行する必要もありません。大手IT企業などが提供するBaaS(Blockchain-as-a-Service)はほとんどの場合コンソーシアム/プライベートチェーンとしての利用を想定しており、貿易金融、サプライチェーン、株式・債券の決済などの領域で実用化も進んでいます。

プライベート/コンソーシアムチェーンのメリット:

  • 台帳が関係者にのみ共有されておりプライバシーが保護される。
  • 取引承認者が限られているため合意形成(取引承認)スピードが速い。 
  • マイニング報酬が必要なく手数料が安く済む。 

プライベート/コンソーシアムチェーンチェーンのデメリット:

  • 台帳が公開されておらず透明性が低い。
  • 特にプライベートチェーンでは管理者による改竄の恐れがある。

ブロックチェーンを取り巻く主要ビジネス

ブロックチェーンを取り巻くビジネスには、チェーンの開発主体以外にも様々な形態のビジネスが存在します。むしろチェーンの開発自体はオープンソースで非営利的に行われ、逆にその周辺ビジネスが営利目的の活動をしている場合が多いです。

  • マイニング:パブリックチェーンの取引承認競争に参加し、手数料として取引実行者から与えられる、または新たに発行される仮想通貨を獲得するビジネスです。ビットコインとイーサリアムを動かすPoWでは、大量のコンピューティングパワーを消費して暗号学的な問題を解くことが取引の承認にあたり、それに対し報酬が与えられるので、利益を得るためには電気代の安い地域で大量のマシンを稼働させる必要があります。

  • 取引所:仮想通貨を売買するためのプラットフォームです。法定通貨での購入に対応しているものと、仮想通貨同士の交換にのみ対応しているものが存在します。マッチングエンジンを用いてオーダーを突き合わせるタイプが一般的ですが、売り手・買い手を見つける場を提供するのみの形態(OTC)もあります。

  • ウォレット:仮想通貨を保管するためのデジタルウォレットです。取引所に資産を預けたままではハッキングの恐れがあるので、ウォレット、特に秘密鍵を自分で管理するタイプのノン・カストディアンウォレットで資産を保管するのが安全とされています。

  • ファンド・ベンチャーキャピタル:仮想通貨投資を行うファンドや、ICOトークンへの投資を行うベンチャーキャピタルも存在します。取引所での投機的な売買を行うところもあれば、ICOプロジェクトの私募に参加し、取引所に上場した後に売却、その売買差益を狙うところもあります。

  • コンプライアンス業者:匿名性が高く中央集権機関の検閲を受けない仮想通貨は、マネー・ロンダリングに利用されるリスクをはらんでいます。そこで取引所やICOトークンの発行体は、ユーザーやトークン購入者に対してKYC(顧客の身元確認)やAML(マネー・ロンダリングに関わっている恐れのある人物であるかのチェック)を課していますが、このKYC/AMLサービスを提供する専門業者も存在します。

  • アドバイザリーファーム:法律や税制の面でアドバイスを行う事務所のほか、ブロックチェーン事業一般に対してコンサルティングを行うファームも存在します。

まとめ  

このように、一口にブロックチェーンと言っても、パーミッションレスとパーミッションドでは性質や適切なユースケースが全く異なりますし、それを取り巻くビジネスにも様々な形態が存在します。

パブリックチェーンは特定の機関を信用することに伴うリスクを回避したい場合に適しています。例えばデポジット料金の取り付け騒ぎで話題になっている中国のシェア自転車大手ofoの事例で、イーサリアム上にデポジットを預けておくと仮定すると、その残高は公開台帳で確認可能で退会時もデポジットの返還をプログラムで自動執行できるので、消費者はofoのデフォルトリスクから逃れることができます。
一方プライベート/コンソーシアムチェーンは、関係者間で台帳を共有し情報伝達のコストを削減したい場合に適しています。特に、デジタル化が進んでおらず関係者間で複雑なやり取りが行われる貿易金融のような領域では、郵送やFAXでやり取りしていた信用状や船荷証券をコンソーシアムチェーンで瞬時に送ることができれば、輸出者の代金回収や輸入車の商品回収までのタイムラグ短縮が期待できます。

ここで説明した内容はあくまでも入り口に過ぎませんが、このような全体像をざっくり把握しておくと、特定の分野を深掘りしていくにあたっても方針が立てやすいかと思います。

ブロックチェーン学習のすすめ

ブロックチェーンの具体的な勉強方法としては、ビットコインやイーサリアムなどの主要なチェーンの仕組みや活用事例をより細かいレベルで掴んだ上で、ハードフォーク・アップデートや、法規制、各事業者の動向など、ニュースやトレンドをこまめに追っていくのがおすすめです。基礎は理解できたので特定の分野についてより深く理解したいという方は、専門家による書籍やKOLのブログ、リサーチ組織が配信するレポートも役立ちます。
では書籍、ニュースメディア、KOLでそれぞれおすすめのものやフォローすべき人物を紹介します。

書籍

大学生リサーチャーのmeganさんが網羅的に紹介してくれています。全部読んでいると時間がかかるので、自分が注力したい分野から読んでいくのがおすすめです。

www.yamato0506.info

ニュースメディア

ニュースメディアにも色々ありますが、情報源がしっかりしており信頼できる英語のメディアを見るのがベストです。日本語でも信頼できるメディアはありますが、業界の情報は必ずと言っていいほど英語で出てから日本語訳され、そこにタイムラグが生じます。中には英語でしか読めない深い考察記事もあったりするので、できるだけ英語で情報を追うべきです。
また、参照している情報源は適切でも、読者を惹きつける内容を目指すあまり誤解が生まれかねない形で伝えられていることもあることもあります。特に規制関連のニュースは事実を正確に把握するのが肝要なので、必ず公式機関が発表した一次情報を確認することをお勧めします。

英語と日本語のお勧めメディアを紹介します。いずれもTwitterアカウントをフォローして置くとニュースをクイックにチェックできるので便利です。

  • CoinDesk:英語、日本語版もローンチ予定

www.coindesk.com

  • CoinTelegraph:英語、日本語

cointelegraph.com

jp.cointelegraph.com

  • CCN(Cryptocurrency News):英語

www.ccn.com

  • CoinChoice:日本語

coinchoice.net

  • CoinPost:日本語

coinpost.jp

KOL(Key Opinion Leader)

業界ではよくインフルエンサーという言葉も使われますが、周囲への影響力の強さだけではなく高い専門性を持つ方、という意味でKOLという言葉を使っています。個人の興味関心や集めたい情報によってフォローすべきKOLは変わってくるので、ここで挙げる以外にも幅広くTwitterアカウントをチェックしてみることをおすすめします!

  • 平野淳也さん:ブロックチェーンスタジオのHashHubやリサーチ組織のd10n labを運営しています。  

twitter.com

  • indivさん:Ethereumをはじめとするパブリックプロトコルに関する発信が多めです。リサーチ組織のTokenLabの設立者でもあります。

twitter.com

  • ryuさん:アメリカ在住の投資家で、新規プロジェクトの目利きと迅速な情報発信に定評があります。私もICO調査に専念していた時には大変お世話になりました。

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  • さばCatさん:アメリカ在住の弁護士で、SECの法規制をプロの目線からに解説しています。

twitter.com

  • Meganさん:現役大学生のスーパーリサーチャーで、法規制と中国のブロックチェーン事情に詳しいです。プライベートでも仲良くさせてもらってます!

twitter.com

  • Osukeさん:ブログ「Zoom」は技術寄りですが解説が非常に丁寧で、初心者にもおすすめです。現在はLayerXというブロックチェーン企業で活躍しておられます。

twitter.com

  • 極度妄想(しなさい)さん:イーサリアムやEOSなどのパブリックプロトコルを技術的側面から研究しておられます。示唆に富むツイートが個人的にはツボです。

twitter.com

リサーチレポート

  • d10n lab:平野淳也さんが運営するリサーチ組織です。

d10nlab.com

  • TokenLab:indivさんとCoffee Timesさんが運営するリサーチ組織です。

blog.token-lab.org

  • Huobi Research:大手取引所・Huobiが出しているリサーチレポートです。(英語・中国語)

research.huobi.cn

  • Binance Research:世界最大の取引所・Binanceが出しているリサーチレポートで、Binance上場銘柄に関する考察が多めです。(英語)

info.binance.com

番外編:中国情報を集めるのに役立つメディア

中国では2011頃からビットコインやブロックチェーンを研究するコミュニティが生まれ、一時期はアメリカや日本をしのぐ世界最大のビットコイン市場にまで成長、BinaneOKExHuobiBITMAINなど業界を代表する企業も多く輩出してきました。
中国ブロックチェーン業界のトレンドにも関心が集まっている一方で、日本語や英語でアクセスできる情報は限られています。そこで私もよく中国語のソースを参照しつつ、日本語で情報発信をするようにしています。
ここでは個人的によく参考にしている中国のブロックチェーンメディアを紹介します。中国語の勉強がてらぜひチェックしてみてください。

  • 金色財経:Huobi FounderのDu Junが立ち上げたメディアで、中国二大ブロックチェーンメディアの一つです。

www.jinse.com

  • 8BTC:2011年にJihan Wu(後にBITMAINを創業)らが創業、金色財経と並ぶ中国二大ブロックチェーンメディアです。

www.8btc.com

  • 36kr:中国スタートアップメディアとして定評がありますが、ブロックチェーン関連ニュースも充実しています。

36kr.com

  • BlockData:中国ブロックチェーン産業に関する詳細なレポートが無料で読めます。

www.blockdata.club

総括

ブロックチェーンに対しては、何だか難しそうでつかみどころがない…という印象を抱きがちですが、全体像を理解した上で適切なソースを使い情報収集していけば、楽しみながら勉強していけるはずです。分野をまたいで生まれる知的好奇心、日々変化していくトレンド、多様なバックグラウンドの優秀な人たちが集まるコミュニティ...ブロックチェーンの世界に一歩踏み込めば刺激的な毎日が待っていること間違いなしです。
一緒に頑張っていきましょう!

※本ブログがお役に立ちましたらご支援いただけますと幸いです。頂いた書籍は勉強に使わせていただきます:Amazonほしいものリスト

中国のハワイ・海南省のブロックチェーン産業事情

こんにちは、こじらせ女子(@icotaku_utgirl)です。

中国のブロックチェーン都市と言えば、Huobi・OKEx・BITMAINを輩出した北京、NEO・ONTologyを擁する上海、マイニング機器製造が盛んな深セン、そして政府による積極的な産業振興策で知られる杭州を思い浮かべる方が多いですが、中国の最南端に位置する海南省でもブロックチェーン産業が盛り上がっています。
2018年10月には海南ブロックチェーン実験区がオープンし、それに前後してHuobiBaiduなどの多くのプレイヤーが拠点を海南に構えています。

この記事ではそんな海南省のブロックチェーン産業事情を、政策の沿革や主要プレイヤーの動きを中心に紹介します。
杭州のブロックチェーン産業については、d10n labで詳細なレポートを配信しました。ぜひそちらも併せてご覧ください。

junyahirano.com

海南省の概要

海南(中国語ではハイナンと読む)省は中国最南端、広東省のすぐ南に位置する省で、トンキン湾を挟んで西側にはベトナムがあります。 面積は3万3000㎢(九州よりやや小さい)、人口は867万人(大阪府よりやや少ない)で、首都は北部の海口市に置かれています。

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海南省の位置(Wikipediaより)

中国のハワイとも称される国際観光都市

海南省の中でも南部の三亜市周辺には、熱帯雨林や美しいビーチがあり、「中国のハワイ」として人気を博しています。ヤシの木が立ち並ぶいかにも南国といった雰囲気の街で、商業施設や高級ホテルも多いです。

私自身も一度訪れたことがあるのですが、国内では中国東北地方、国外ではロシアからの旅行客が多いのが印象的でした。(ロシア語の表記も街中でしばしば目にしました。)

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三亜市のビーチ

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三亜市のパイナップル型ショッピングモール。街のシンボルにもなっている

産業・通商政策上の要塞

海南は1980年代末より国家の産業・通商政策上でも重要な意味を持つ地域でもありました。
改革開放さなかの1980年代末、海南は広東省から独立し省に昇格、同時に深セン・アモイ・珠海・汕頭と共に経済特区に指定されました。しかし、目覚ましい発展を遂げた他の地域に比べると大きな経済効果は表れませんでした。

長らく農業と観光業に依存する状態が続いていましたが、近年ではテクノロジー産業の振興にも注力し始めています。

2008年、首都の海口市にほど近い澄邁県に2㎢(東京ドーム40個分)のサイエンスパークが建設されました。その後数年で、Tencent・Baidu・Huaweiをはじめ362の企業が拠点を築いています。
2014年にはTencentの主導で、オンラインゲームや漫画事業に特化したインキュベーション施設もオープンしました。

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海口・三亜・澄邁の位置(北京ingより)

また、2018年10月には省全体が自由貿易区としても指定を受け、観光やサービス、ハイテクなど特定の分野で外資が参入しやすいよう規制を緩和し、2025年を目処に関税ゼロの自由貿易港を設ける構想も出ています。*1

ブロックチェーン実験区の設立

2018年10月、自由貿易区指定と同時に、澄邁県のサイエンスパーク内部にブロックチェーン実験区が設立されました。

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ブロックチェーン実験区オープン記念式典の様子

ブロックチェーン実験区を含むサイエンスパークに入居する企業やそこで働く個人は、以下のような優遇政策を受けることができます。なお、同様の政策は北京の中関村杭州のブロックチェーン特区など、他のテクノロジー企業集積地でも実施されています。:

  • 勤労所得やストックオプション行使による所得に対する税優遇

  • ハイレベル人材・起業家に対する生活費援助

  • オフィス賃料や住居費の援助

  • 法人税の減免

  • 事業者ローンの金利優遇

ブロックチェーン実験区のオープンに前後して、50以上の大手企業や国内外の教育機関が海南に拠点を構えています*2

  • Bibox(取引所):ブロックチェーン技術応用センターを設立。Biboxは2017年11月にオープンした新興の取引所で、アルトコインの取扱いが多く、出来高でトップ20に入ることもしばしば。

  • Huobi(取引所、OTC、ファンド他) :Huobi Chinaの拠点を北京から移転*3。Huobi Chinaは中国において、Huobi研究所(シンクタンク)、Huobi大学(オンライン講座)、Huobi Labs(インキュベーター)Huobi英才(人材エージェント)、Huobi律林(法務コンサル)の五事業を展開する。Huobiは取引所業務からスタートした企業ではあるが、中国で取引所運営が禁止されてからは海外で取引所を展開し、中国国内では取引所以外の事業を多角化させてきた。

  • Baidu(検索エンジンをはじめ多数の事業を展開する大手IT):傘下のブロックチェーンR&D部門・度链(Dulian)を設立。Dulianは独自のBaaS・XuperChainの開発を手がける。XuperChainに関する詳しい解説はこちらを参照。

  • オックスフォード大学ブロックチェーン研究所を設立。本拠地ロンドン、そしてイスラエル・クロアチアの研究所と併せ、世界にまたがるオックスフォード大学ブロックチェーン研究所の拠点の一つとなっている*4

  • 中国人民大学:大学のビッグデータ・ブロックチェーン・レギュテック実験室がブロックチェーンシステムイノベーションセンターを設立*5。中国人民大学は中国全土でもトップ5に入る文系総合大学。

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ブロックチェーン実験区・Huobiのビル(36krより)

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ブロックチェーン実験区・BaiduとBiboxの拠点(36krより)

海南のような「オフショア」は、北京・上海・杭州のような大都市に比べると、産業発展の土台となる企業や人材の誘致を一から行う必要があるのが難点ですが、既得権益がなく柔軟な施策を打つことができるのが利点として挙げられます。
自由貿易区として外資の誘致もしやすいため、杭州など中国の他の都市のブロックチェーン特区と比べ国際色豊かな特区となると予想されます。また、規制の整備が進みブロックチェーンの更なる盛り上がりが期待できる東南アジアに近いことも、海南特有の利点と言えるでしょう。、

今回は海南省のブロックチェーン産業を紹介しましたが、同じく大都市ではないものの政府手動で急速に開発が進みブロックチェーン産業も盛り上がりつつあるのが河北省・雄安地区です。近いうちに雄安地区のブロックチェーン産業の動向も取り上げる予定です。

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